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長野地方裁判所木曽支部 昭和46年(わ)17号 判決 1971年11月29日

被告人 塚田範昌

昭四・四・一六生 自動車運転手

主文

被告人を罰金五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となる事実)

被告人は、日本通運株式会社上田支店に勤務し、自動車運転の業務に従事する者であるが、昭和四五年一二月二二日午後一〇時五〇分ころ、大型貨物自動車(長野一・あ・一四五三号)を運転して長野県木曽郡南木曽町読書五、一八八番地先道路(国道一九号線、ほぼ平坦にしてアスファルト舗装)を名古屋市方面から松本市方面に向けて時速約五〇キロメートルで進行中前方約四〇メートルの道路左側端を酒に酔い、やや前かがみにして上半身を左右に振りながら対面歩行して来る湯浅勇(当時四〇年)を認めた。ところで、同所付近道路は歩道と車道との区別がなく、幅員は約八・四メートルでかつ折から約五〇メートル前方の対向車線には大型貨物自動車が接近していたため、ハンドルを右に切って同人との距離を充分に保ったまま通過することができない状況にあった。このような場合自動車運転者としては、酒に酔った歩行者が往々にしてその進路が定まらず不意に自車の進路上に出て来ることも予想されるのであるから、右歩行者の挙動によっては警笛を鳴らして自車の接近を知らせることは勿論、対向車の通過をまって進路を右にとりその歩行者との安全な距離を保持しつつ進行し、あるいはその側近を通過する場合には、減速徐行して右歩行者が急に自車の進路上に出て来てもこれに対処して事故を防止することができるような方法で運転をしなければならない業務上の注意義務がある。

しかるに被告人は、右注意義務を怠り、右湯浅を前方約四〇メートルに認めた地点において足をアクセルペダルからブレーキペダルに移動したものの、同人が道路右側端を歩行し自車進路上には出て来ないものと軽信し、漫然と同速のまま同人の側近を通過しようとした過失により、折しも左側端から自車進路上にふらつきながら出て来た同人を約二五・五メートル先に認めて慌てて急ブレーキの措置をとったが、とき既に遅く、自車が停止する約一メートル手前で自車前部左側を同人に衝突させてその場に転倒させ、よって同人をそのころ、同所付近において頭蓋底骨折の傷害により死亡させるに至らせたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法二条、三条に該当するところ、後記情状を考慮して所定刑中罰金刑を選択したうえその所定金額の範囲内で被告人を罰金五万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑について)

一、本件は、判示認定のとおり被告人において被害者湯浅勇が一見して酒に酔った状況にあること(もっとも、被告人が認めた際の同人の状況は判示認定のとおりであって、いわゆる千鳥足と称されるような進行方向の定まらないような状況ではなかった。)を認めながら、同人の側近をそのまま通過できるものと速断し、同人との衝突を避けるのに必要な減速、徐行の義務を怠った点に過失があるのであって、本件事故が被告人にとって不可避なもの、従って被告人には過失がないとする弁護人の主張は採用できない。

二、ところで、前掲証拠の標目欄記載の各証拠によれば、被害者湯浅は、日雇人夫であったが、日ごろ酒を好み、当日は雨で仕事がなかったことから正午ごろより自宅で酒を飲みはじめ、午後四時ごろからは内縁の妻の知り合いである丸山芳繁をも招いて飲み続け、夕刻までに少くとも清酒五、六合、ビール数本を飲んだうえ、さらに飲酒すべく右丸山を誘って国道一九号線沿いにあるドライブインに赴いたが、その途次既に酔のため二回も道路で転倒するなどの状況にあり、右ドライブインでも清酒銚子二本、ビール一本を飲み、午後一〇時過ぎ、同所を出ての帰途本件事故に遭遇したものであることが認められ、このことからすれば、同人は本件事故当時酒に深酔し、いわゆる泥酔状態にあったことが推認されるところ、司法警察員宮岸勇作成の実況見分調書、被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書、同人の当公判廷における供述によれば本件道路は、この地方の主要幹線で常時車両の通行量が極めて多く、本件場所付近は、事故当時既に夜も更けて人通りも殆んどなく、主として大型貨物自動車などいわゆる長距離トラックが頻繁に通行している状況にあったことおよび本件事故現場付近は外側線が施されており、かつ被告人車両は右外側線の内側(中央寄り)を進行していたものであり、道路の側端から右車両までは約一・五メートルで、歩行者が通行するのに充分な間隔があり、右被害者が正常に歩行しておれば本件事故は発生しなかったことが認められる。

そして、被害者は、判示認定のとおり被告人車両が停止する直前(約一メートル前)でこれと衝突し(従って、被告人の急停止の措置が僅かに遅れたものというべきである。)道路に転倒したものであることおよび判示認定の傷害の部位、程度とを併せ考えれば、被告人車両との衝突は左程強烈なものではなく、被害者が泥酔状態にあったために身がまえることもできずに道路に転倒して、頭部を強打し本件致命傷を負ったこととも推認されないではない(もとより被告人の過失と右死亡との間に相当因果関係のあることは否定できないが)。

以上の諸事情を考慮すれば、本件事故については被害者の過失は被告人のそれと対比して極めて重大であるといわなければならない。

三、次に、本件事故に関し、被告人の勤務先である日本通運株式会社上田支店と、本件被害者の遺族ら(母および内縁の妻)との間に右会社が同人らに六八〇万円を支払って和解が成立していること、被告人には業務上過失傷害および道路交通法違反による前科があるが、本件事故について深く反省している。

四、以上のほか、諸般の事情を考慮すると、被告人に対しては自由刑をもって処断することは重きに失するものというべきであり、主文の刑をもって相当と考える。

よって主文のとおり判決する。

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